県職員パワハラ過労自死裁判オンライン報告集会を開催

 提案・声明・見解

「いのちの大切さを感じない組織とわかった」

 7月30日(木)に県職員パワハラ過労自死裁判の第2回弁論準備が横浜地裁で行われました。その後に行われた知事定例記者会見での記者からの質問に「当初から対応不十分だったと認めてきた」「ご遺族とは大きな認識の隔たりはない」「県はこれまで一貫しておおむね責任を認めるスタンス。私自身も会見の場で改めてお詫びの言葉を述べた」と答え「裁判所から示唆があれば、和解に向けたテーブルにつくことは当たり前」と和解に向かう姿勢を述べました。

 従来からの方針転換を示した県答弁の要旨とそれに対する県職労意見として、裁判から明らかとなった県対応の問題点や再発防止のために行うべきことなどについては裏面に記載しました。ぜひご覧ください。

 そして、県職労が企画した裁判のオンライン報告集会に、原告、弁護団、マスコミ関係者、裁判の支援者など23名が参加しました。裁判についての弁護団からの解説をふまえ、参加者との意見交流を行いました。

 パワハラの懲戒処分を見直した今も、新型コロナに乗じた知事事業の現場職員への押し付けがむしろ増え続けています。パワハラを無くすには、職場の中にいる労働者が団結して声を挙げることで「力関係」を変えることが求められます。

 組合員そして職員の皆さんには、遺族母親の言葉を受け止めていただき、それぞれの立ち位置から何ができるのか、考えて実践してほしいと願っています。

和解求むなら「謝罪」と加害・責任者の処分を

2020.08.04 県職労意見

1 県「否認・争う」から「認める・和解」に方針転換

 財政課での長時間労働と知事室上司からのパワハラ等により過労自殺し、遺族が提訴した裁判の被告(県)側弁論が7月30日(木)に行われました。裁判期日後の記者会見で知事は「当初から対応不十分だったと認めてきた」「ご遺族とは大きな認識の隔たりはない」「県はこれまで一貫しておおむね責任を認めるスタンス。私自身も会見の場で改めてお詫びの言葉を述べた」と答えました。そして、「裁判所から示唆があれば、和解に向けたテーブルにつくことは当たり前」と和解への姿勢を述べました。「原告主張を認めない、請求棄却で争う」からの方針転換です。「このような苦しみは二度と味わってほしくない」とたたかった原告遺族の粘り強い努力が、知事・当局を事実上の「降参」へと追い込みました。

 今後、裁判をどう進めるのかは遺族と原告弁護団が決めることです。他方で、知事・当局が重大事故の原因究明や責任所在を問わずに「幕引き」図ることは、「二度とこのようなことを起こさせない」観点から許されません。そこで、今回の裁判で県が認めるまたは争わないとした点を確認し、県が原告に和解を求めるのであれば知事・県当局が行うべき事項について、県職労見解を述べます。

2 今回(7/30)裁判で県「認める」「争わない」としたこと

①自死の公務起因性と安全配慮義務違反との因果関係は争わない

 原告は、県が被災者に対して負っていた安全配慮義務とは、過重な労働が原因となって健康を破壊し、過労死をすることがないよう労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休憩場所、人員配置、労働環境等適切な労働条件を措置すべき義務をその内容とし、財政課と知事室での業務において県の安全配慮義務違反を主張しました。県は「地方公共団体が、公務の管理において、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する安全配慮義務を負っていることは認め」たうえで、知事室・財政課の業務による精神的・肉体的な大きな負荷を認め、「被災者の自死の公務起因性及び安全配慮義務との因果関係は争わない」としました。

②知事室業務の「質的過重性」認める

 原告は200時間を超える時間外労働の「量的過重性」に加え「質的過重性」として「神奈川をコスプレで盛り上げよう」との知事の思いを実現させる「知事特命事項」が、被災者を精神的・肉体的に疲弊させたと主張しました。県は、「知事室において、被災者に一定程度の業務負荷がかかり、疲労の蓄積があった」と認めました。しかし、以前の答弁で、知事特命事項のイベント等は「被災者にとって大きな精神的負担になっていたと認めることは困難」とも言っており、知事室のどの業務を指して「質的過重性」と県が認めたのか、詳細は判然としません。

③知事室上司指導を問題と認める(パワハラ認否は不明のまま)

 知事室上司からのパワハラについて、県は、第三者委員会「パワハラ緊急チーム報告書(以下「報告書」)」を踏まえ、「職員によってはパワハラと感じる可能性があり、指示の具体性の欠如も併せ考えると指導方法に問題があった」等について「その範囲で争わない」としました。

 「報告書」は、先の県職労情報(5/17)で述べたとおりパワハラの有無を明らかにしないなど不十分な内容でしたが、聞き取り調査で「部屋に響き渡るような大きな声で怒鳴られていた」「弱い人間にとっては間違いなくパワハラと受け止められるようなものだった」と証言されたことが進展に繋がりました。

④産業医面接で「正しい労働時間報告せず」と認める

 被災者のうつ病発症後に行った産業医面接についても、健康状態の客観的な把握やそれを踏まえた適切な事後措置が取られなかったとの原告主張に対し、県は「面接日の設定が遅きに失した」「産業医に正しい労働時間が報告されていない」と認めました。

 産業医の面接指導は、労働者の勤務条件を客観的に把握した上で、勤務条件の変更等を使用者に意見する等の適切な事後措置を講じることが目的です。産業医面接に際し使用者は対象者の時間外労働や勤務状況を正しく報告する義務があります。しかし、実際には100時間超の時間外労働にもかかわらず、総務局総務室は産業医に対し、4月から8月までの時間外労働はいずれも80時間未満で9月にようやく(産業医面接を要する)80時間超と報告しました。疲労の蓄積状況を「軽」とし事後措置としての指導・勧告の必要性を「不要」とした産業医の判断に影響を及ぼした可能性があります。なお、同席した保健師は、面接中での被災者の様子から精神状態に異変を感じており、その後医師に相談し被災者に再面接を打診したものの間に合いませんでした。

3 「繰り返さないため」知事・県当局が行うべきこと

①知事・加害者は遺族に心からの謝罪を

 公務災害認定後も知事・加害者は遺族に謝罪せず、事件を隠ぺいし遺族からのパワハラ調査の求めに応じませんでした。また、遺族は公務災害申請の説明が無かったなどと話しています(「報告書」に記載)。これらの知事や県の対応が遺族の不信感を増大させ、遺族は望んでいなかった提訴に追い込まれました。

 提訴後も、原告主張を認めず原告からの請求棄却を応訴してきました。遺族が「知事から一度も謝罪を受けていない」とするにもかかわらず、マスコミ向けに「私は謝罪しました」と言い続けることで遺族の心情を逆なでています。パワハラ上司は「記憶にない」などと証言しており、何ら反省していません。重大事故の遺族に対する一連の対応は、住民のいのちを守ることを最大の使命とする県として許されるのか、知事・関係者に問われています。パワハラ上司や責任を負うべき管理職等が順当に昇進させ続けているところに、知事・県当局の姿勢が表れています。

②「業務過重性」の中味を明らかにすべき

 「知事特命事項」をはじめ、どういった仕事のさせ方が「質的過重性」に当たるのか十分な検証を行い明らかにすべきです。新型コロナで県庁中が疲弊しているにもかかわらず、事前に職員に説明し理解を求めること無く、知事側近が打出す「LINEコロナ」のローラー作戦に動員させました。コロナに乗じた、有無を言わさない職員への知事思い付き事業の押し付けが目に余ります。知事・上司からの「知事特命事項」が被災者の心身をすりつぶしました。何が「質的過重性」なのか、事件から3年以上経った今も知事や側近らはまったく理解できていません。

③産業医・保健師の充実強化を図るべき

 県安全衛生委員会(書面開催)では、面接対象者の急増を理由に、一定の要件での産業医面接のオンライン化を可能にしたいとの当局提案がされています。しかし、本事件の反省点を踏まえれば、適正な時間管理を行い正しい情報を産業医に伝えること、産業医や保健師が職場調査し労働実態を正確に把握できること、丁寧な面接により受検者の様子などを把握できることが、重大事故を未然に防止できる可能性を示唆できます。新型コロナの感染拡大防止や面接対象者の急増に対応した緊急での仮対応でのオンライン面接は否定しませんが、産業医面接の職員への理解を周知することと合わせ、産業医と保健師の増員による産業医面接の充実強化を図るべきです。

④加害者・責任者の処分と是正対応の公表を

 本事件で安全配慮義務を負うべき責任者を明確にし、パワハラ加害者や安全配慮義務を違反した者を懲戒処分や降格などの人事処分をすべきです。「故意または重過失」の者への求償請求を行うべきです。

 また、居酒屋チェーン店での過労自殺裁判では、和解にあたり、代表者・役員・人事部長が個人責任を認める、全社員に対し過去の不払い残業代を支払う、労働時間を正確に記録するなどの過重労働対策に同意する、これらの内容を代表者のホームページに1年間掲載するなどが盛り込まれました。

 責任の所在やこれまでの不払い・パワハラを不問にして「幕引き」を図るのではなく、県庁職場に蓄積され続けた問題を洗い出し、遺族、職員、県民に明らかにすることから、「二度とこのようなことを起こさせない」県庁への変革が始まるのではないでしょうか。

 参加者からの意見や感想など詳しい情報は、県職労情報No.1380(学習資料のページ)をご覧ください。

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