「希望の国」監督:園子温


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 架空の町、長島県大原町。酪農を営む主人公は認知症の妻と息子夫婦の四人で暮らしている。向かいのドラ息子は恋人と遊び惚けている。この3組6人の男女を巡り物語は展開する。

 福島の原発事故から数年経過したある日、巨大地震が起き隣町の原発も事故を引き起こす。半径20キロの警戒区域は自宅の庭を分断する。見えない放射能漏れの恐怖のなか、6人はいかに対応するか。福島事故以来、事実を伝えない行政を信じなくなった主人公は、息子夫婦とやがて生まれるであろう新しい命のために疎開を命じる。自ら二人は先祖伝来の土地に残留する…。

 福島事故が解決されていない現時点で、この監督はなぜこのような重いテーマを取り上げたのか、と問うより、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまう我々観客を指弾しているように思った。

 監督の園子温(その・しおん)は現在51歳。その作品は海外でも評価が高く、「冷たい熱帯魚」など数々の話題作を発表している。主演の夏八木勲も素晴らしく、この映画が彼の代表作となるであろう。

 物語が終わり、初めてタイトル「希望の国」と現れるのも心憎い演出だ。
(2012年 日本)

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